儀志湿北端から、黒島南方を通り、前島北端を目指す。
                この時間帯は潮の影響はないと考えていた。
                風を獲るコース取りだけを考えればいい。
                スタートダッシュの混乱を制した選手に、前島は近く見えているのか、遠く見えているのか。
                ともかく、力強い南風を受けながら、ニヌハ2は速度を上げる。
                さらに上位の「ハーインドー」や「島童(しまわらび)」にも近づきまた離されを繰り返している。
                現在の波は穏やかだが、難所であるチービシの南を越えるまでは安心できない。
                クルーから、縮帆解除の提案もあったが、そのまま進むことを決断する。
                穏やかな場所で、縮帆を解くことは可能だが、危険な場所で縮帆することは不可能だからだ。また、バウが沈みがちなのも気になる。
                黒島のブイを越えたあたりで、限界に達した選手を緊急交替させる。
                この地点で交替する選手は前半30分と後半を漕ぐことになる。
                ポジションは、帆の操作が必要な場所。
                私はジェスチャーで伊東画伯を指名した。
                興奮状態に入った伊東画伯は、疲れる事を知らないからだ。
                シミュレーション通りの完璧な交代手順で、タイムロスはほとんど発生しなかった。
                
                前島が大きく見え、ハテ島北端に進路を取る。
                次の交替は重要だ。
                そもそも、この日のように風が強い場合は、クルーの数を減らして重量を軽くし、風の恩恵を最大限に活用することを考えていた。しかし、上位のチームは予想以上に風を使いこなしている。風だけでは勝負にならない。
                また、爆漕永井から発せられる的確な指示により、漕ぎ手の力もかなり有効に働いている。
                人数を減らすべきか、維持すべきか。
                レース中に声を張り上げ、最も冷静に状況を把握しているホーボーに意見を求める。
                そして最終的に、当初計画とは全く違う決断を下した。
                ハテ島付近に、波の少ない場所があった。
                伴走艇にジェスチャーで告げる。
                「3名用意!」