夜が明ける。
              腰の強い南西の風が吹いてる。
              コンディションは悪くないが、
              湾内から外に出れば、大きなうねりが押し寄せるに違いない。            
              
              そもそも、選手全員が一同に顔を合わせたのは昨日のことだった。
              昨日の午前中まで、選手の意識はばらばらだった。
              提案した作戦を聞き流す者。
              船の性能を理解していない者。
              漕ぎ手の力は艇を前に押し出すのではなく、上下左右に揺さぶり、まるで帆に風を入れることを拒むようだった。
              そこで、召集したミーティング。
              初めて選手の意思が統一されたのは、昨日の午後の事だった。
              本当の意味で息の合った練習は、この後の数時間のみ。
              しかし、その数時間は人生で稀に見る濃密な時間だったことを記憶している。            
            スタート10分前。
              向かって右側がポールポジション。
              ニヌハ2は昨年の順位により、13番のスタート位置だ。
              目標5位、少なくともシングル。
              そのために出来ることは全てやってきた。
              掲げた目標のためには、選手に厳しいことも言う。
              冷酷な決断もする。
              その代わり、結果を出さなくてはいけない。
            コックピットでロープやGPSなどの準備をしながら、
              スキッパーを請け負った者だけが味わう、強烈な孤独感が押し寄せていた。
              
              引用:「不良のアウトドア」