牛ヶ浜の死闘


もう、何年も前のことである。
生まれて初めてカヤックを漕ぎにカケロマへ出かけた日のこと。

今思えばあのツアーは、天候は悪く、海はぐちゃぐちゃ。
朝から日没ぎりぎりまで漕ぎ続ける、過酷なツアーだった。

テントをどこに張って良いかも分からず、
「あそこ、どうですかね?」と堀田さんに聞いたのが間違いの始まりだった。
「いいんじゃないの。」
しかし、その浜のその場所は、放し飼いの黒牛2頭の通り道だったのだ。

朝、食事が終わってテントに戻り、マットやシュラフをたたんでいると、外に妙な気配がする。
わずかに開いたフライシートのファスナーの隙間から見えるのは、黒い物体。
そう!その黒牛2頭。
黒牛は僕のテントを見て、「何じゃこれは?」と興味深々の様子。
しかも、テントの外には、乾かそうとしてくくりつけた
オレンジ色のウィンドブレイカーが、ひらひらと舞っている。
「やばい(・・;) とにかく『しらんぷり』しよう」と、
黒牛のことは無視してマットを何度もたたみなおす。
しかし、外の黒牛の気配が消えることはない。
もう一度勇気を振り絞って目線を上げて、ファスナーの隙間からの外を見る。
なんと、黒牛はますます距離を縮めているではないか!
冷静に考えれば、牛との距離は10メートルは有るのだろう。
しかし、狭いテントのファスナーの隙間からかいま見える外の景色は、
黒一色で覆いつくされている。
しかも黒牛は、さらに興味深々、じりじりと歩み寄ってくる。
「だれか何とかしてくれよー(ToT)/~~~」と、心で叫びながら睨み合いが続く。

その頃、朝食後のお茶を楽しんでいた『本部タープ』では・・・
「あっ。牛が来てるね〜(^。^)y-.。o○」
「テントを睨み付けてるぞ。」
「そういえばzakiさんいないよね。」
「うっそー!きっとテントの中だよ(^_^)」
「ひー(^○^) 面白い。今、テントから顔を出してくれたら、いい写真撮れるんだがな〜。」
・・・などと、カメラを取り出して喜んでいる。
「ちくしょう、こいつら・・・(ーー゛)」


それ以来、裏側にファスナーのないテントは使用しないことにしている。